経営上の英断と泥沼を分けるもの

今や日本企業で時価総額1位となったキオクシアを2018年に東芝から買収したのがベインキャピタル。日経新聞に掲載されたベイン日本代表の杉本氏へのインタビューで印象的だったのは、巨額の赤字を出しながらもメモリー市場の可能性を信じて設備投資を続けた点だ。

その後AIが急速に普及するという強運もあったと思うが、成功要因としては関係者の説得を含む実行力とそれを支える賢明な判断が先で、運は後からついてきたのではないか。

外部のCFOとして日本企業の海外子会社の経営に関わっていると、業績不振が続く孫会社へ追加資金支援の判断を手伝うことがある。まずは社長と同じ目線で議論ができるよう、損益や資金繰りの近況を報告するところから始めるが、社長が新たな事実に驚くことも少なくない。

さて、事業の失敗が継続しているにも関わらず資源を投入し続け、泥沼化していく現象は「エスカレーション・オブ・コミットメント」と呼ばれる(清水勝彦「戦略の原点」)。過去の巨額投資や「不退転の決意」のために後に引けなくなってしまい、撤退がずるずる遅れてしまう。

このような状況で、取締役を含め社内から聞こえてくる「まだ支援を続けるのか」という声は当然の懸念といえる。とはいえ、早く見切りをつけることがいつも正しいわけではない。業績の低迷は一時的な市況悪化によるものだったのかもしれない。過去はどうあれ未来が明るければ投資は継続すべきだ。

もちろん未来が100%正しく予測できれば苦労はしないわけだが、それでもなお経営者には市場が中長期的に伸びていくのかを大局的に見極める眼力が求められる。

その上で、自社が競争に勝てる施策を着実に実行していく。その土台となるのが過去の不振要因の分析だ。顧客からの見積もり依頼が減っているのはトランプ関税が原因なのか、それに加えてそもそも自社に声がかかっていないのか。後者だとすれば問題で、市況が回復しても注文はそれほど増えない事態が予想される。例えば、顧客担当とファイナンス部門がタッグを組んで行うことが多い受注や売上の予算実績比較は、自社が競争できているかに関する示唆を与えてくれる良い情報源となる。

未来の成功を信じて資源を投入し続ける「英断」と、ずるずると泥沼にはまっていく「エスカレーション・オブ・コミットメント」は紙一重だと思う。その明暗を分けるのは運の有無ではなく、外部環境と自社をどこまで理解できているかという一点に尽きるのではないか。ここでファイナンスが果たす役割は大きい。

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